かたちあるもの
ずっと秋が苦手だった。
だって、あなたがいなくなってしまった季節だから。
街の空気が少しずつ冷たくなっていくのを感じる度、
自分のしてしまったことの重さを思い出しては、たまらなく後悔する。
私にとって秋は、そんな季節だった。
もう、あの日から12年が経つ。
思えば、12年前も
私は「かたち」ばかり欲しがって、あなたを困らせた。
そうやって、あなたのことも、自分のことも、傷付けてばかりいた。
愛されている「かたち」が欲しくて
1人じゃないという「かたち」が欲しくて
あなたがいるという「かたち」が欲しくて
自分は間違ってないという「かたち」が欲しくて
求めてばかり、だった。
一体、何にそんなに怯えていたんだろうね。
あの日から、何度、同じことを繰り返してきたんだろう。
大切な人の言葉さえ信じられず、
自分を信じることすらできず、
そうやって、数えきれないくらい人を傷付けてきたし、
同じように自分のことも、傷付けてきた。
そんな自分に気付く度、あの日から
全く成長できてないよに思えて、たまらなく情けなかった。
だけど、
途方もないくらい時間はかかってしまったけれど
ようやく、わかった気がする。
「かたち」なんて、なくてもいい。
確かに、かたちがあることで、安心は得られる。
けれど、目に見えるものばかり気にしていたら、
本当に大切なものが見えなくなってしまう。
だって心は、目には見えないから。
そんな目に見えない心を伝えるために
人間は、言葉を発達させてきたのかもしれない。
けれど言葉も人間も厄介で、
不器用だったり、なんらかの意図があったりして、
心とは裏腹の言葉を使ってしまう。
むしろ、ありのままの心を言葉にできる人のほうが少ない。
だからこそ私たちは、
言葉だけではなく
目に見えるものにばかりとらわれず
目に見えないもの
かたちのないものを、感じることができる術を
身につけたのだと思う。
目の奥に秘めた哀しみ
ふとした動作から伝わってくる愛情
何か言おうとして飲み込んだ迷い
笑顔に隠された不安…
それら全てを1つも落とさず、感じることはできないけれど
それでも、
かたちのないものこそ、大切にしたいと思う。
相手のものも、自分のものも。
本当はね、ずっと前から、そんなこと気付いていた。
もう今は、かたちのなくなってしまったあなたを
こんなにも愛しく、想い続けてこれたんだもの。
あの日からずっと
たくさん人を傷付けて、
たくさん自分も傷付いて、
何も変わってないと思っていたけれど
ちゃんと、その度に少しずつ成長してきていたんだ。
ただ少しだけ、それを受け入れる勇気が足りなかっただけ。
ようやく、前に進める。
ずっと、あなたがいなくなってしまった秋が、苦手だった。
でも今は
大好きだったあなたへの
かたちのない想いを感じられる、大切な季節だと
笑顔で言えるようになったよ。
その勇気をくれる人に、出逢えたんだ。
ありがとう。大好きだったよ。
これからもずっと、大切なあなたへ。