大阪
初めて、あなたの生まれ育った街に来た。
13年前、ネックレスと千羽鶴を送った住所を訪れる。
「米澤」の表札を見つけるとか
その家から誰かが出てきて鉢合わせるとか
そんなドラマのような展開はなくて、
Googleマップに導かれるままたどり着いたのは、とあるマンションの前だった。外観からして、かなり昔からこの街にあるようだ。
それはつまり、
このマンションのどこか1室があなたの過ごした家なのか
そもそも、住所が間違っているのか
本当に「米澤 薫」という人物が存在していたのか
それすら、私にはもう確かめようがないという事実を示していた。
(これで、よかったのかもね)
10年以上、ずっと引きずってきた想い。
初めて私を、心から愛してくれた人。なのに、信じられなかった。
「薫が、生きてさえいたら…」
この10年。そうやって、あなたの存在を、人を信じられない、誰かを好きという気持ちを認められない自分の弱さの、言い訳にばかり使ってきた。
(きっともう、手放すべきなんだ)
おそらく、あなたが過ごしたであろう街をあてもなく、ただふらふらと歩きながら、そんなことを思った。
あれから13年。
ようやく大切にしたい、愛しいと思える人に出逢えた。
だから今、こうしてここにいる。私は、彼に会うため、この大阪にやってきた。
それなのにまた、ささいなことで私は、勝手に不安になって、傷付きたくないがゆえに、自分の気持ちから目を背けようとしている。
彼を、悪者にして。
あのとき、あなたにしたのと、同じように。
そんな現実から逃げるように、この街に来た。
きっとどこか期待していたんだと思う。ここに来れば、あなたが何とかしてくれると。
「もう、いいんだよ」
「目の前の彼を、そして、自分の気持ちを大切にしな」
もう、はっきりと思い出すことのできないあなたの声と顔。
けれど、そう言われたような気がした。
この13年、あなたはいつもそうやって、私の背中を押てくれた。
(もう、卒業しなきゃね)
人の気持ちに、今の彼との未来に「絶対」なんてありえない。だからこそ、不安になるし、逃げ出したくなる。けど、今、この瞬間の気持ちを、ちゃんと大切にしようと思う。
あなたが私にとって大切な人であるとに、変わりはないけれど、
私、自分の足で歩いてみるね。
ありがとう。
そして、
「さよなら」
きっと、もう2度とここへ来ることはない。
そんな想いを胸に、私は、彼の家へ帰る電車を待つ。
自分の足で、歩いていくために。