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本当に大切な人を ちゃんと大切にできる私に。

春の道

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この時期、新しくこの街にやってきたからなのか、それとも季節がそうさせるのか、どことなく、落ち着きがなく、けれど幸せそうな人たちが街にあふれる。


そういう私もその1人で、心地よい日差しと、街のそんな雰囲気に誘われてか、いつもより少し遠回りをして、会社に向かうことにした。


イヤフォンから流れる音楽に耳を傾けながら、もうすぐそこまでやって来ている春を身体全体で感じる。



すると、1人の女性がスマホを片手にこちらに近づいてくるのが見えた。



「すみません」


20代前半ぐらいだろうか、まっすぐ伸びた黒髪と笑顔がとても魅力的な女性だ。


「この○○蒲鉾店に行きたいんですけど・・・」


そう言いながら彼女が差し出したスマホの画面を見ると、そこには見覚えのあるお店が写っていた。家から徒歩5分とかからないところにある蒲鉾店だ。



(あのお店、そんな有名だったっけ?)


なんて、お節介な疑問が一瞬、頭をよぎったが、すぐに押しのけ、彼女の求めていることに答えることにした。


「ああ、そこなら、まずは反対側に渡ってもらって・・・すぐですよー」


 

「ありがとうございました!」


簡単に道順を伝えると、彼女はとびきりの笑顔とともに、その一言を私にくれた。やっぱり、笑顔がまぶしい、素敵な女性だ。

 

 

(そういえば、よく道を聞かれたり、知らないおばあさんに話しかけられたりしてたっけな)


彼女と別れてから、ふとそんなことを思い出す。
あれは肩に力が入っていなかった頃だった。色んなことに挑戦していて、仕事にもやりがいを感じていて、毎日が本当に充実していた頃だ。人見知りで、不器用で、すぐ人と勝負をしようとしてしまう私だったけれど、それでも、本当は「私は"人"が好きだ」と、ようやく認めることができた頃だ。


だからだろうか。


彼女のくれた「ありがとうこざいました」は、なんだかすごく懐かしかった。



昼間は、デニムジャケットだけでも、心地いい。
もうすぐ春がやってくる。


彼女は、無事にかまぼこを食べることができただろうか。